今、一番望まれる主体性という性質
❖日本企業の現状
就職戦線を勝ち抜くため、幸せな社会人生活を送るために学生たちが持ってほしい能力の一つとして主体性があります。特に、頭脳労働者になろうという学生には絶対に必要な能力と考えています。
これは、現在の組織人に課せられるタスクの変化から言えることです。過去を振り返ってみると、バブル期を頂点とする日本の成長期には欧米というロールモデル(手本)がありました。欧米に追い付くために技術を磨き、ビジネスシステムを作り上げ、バブル前夜には「JAPAN AS NO.1」などという本がベストセラーになったほどです。(高校時代にこの本を手に取った時には誇らしかったことを覚えています)世界トップクラスの技術やビジネスシステムを創り上げた日本の企業は、その後ロールモデル不在のまま成長していかなければならなかったのです。その後の20年は「失われた20年」と言われていますが、その間、ロールモデル不在の中の日本の企業は試行錯誤の連続だったのではないでしょうか。その状態は今も変わらず、現在の日本にもロールモデルは存在しません。ということは組織の中でトップは誰も分からない中、方向性を決定していかなければならないということになります。これは、マネジメント層も同様で、もがきながら成功を目指しているのが日本の企業の現状と言えます。
❖日本の強み「全員経営」
さて、どうすれば成功するか分かっている場合は、リーダーは具体的な指示を出すことができ、チームを引っ張ることで目標に向かうことができます。しかし、目標までの道のりが分からない場合、リーダーが具体的な指示を出して、もしうまくいかなかった場合、メンバーたちは納得するでしょうか。もし、リーダーにカリスマ性があった場合であれば、1回や2回の失敗は受け入れてくれるかもしれませんが、何回も失敗するとそっぽを向かれてしまうことでしょう。そのような中で組織の仕組みに変化が起きています。リーダーが軍隊のように組織をけん引する仕組みから、リーダーが掲げる目標に対し、メンバーが自ら方策を考え実践するモデルへの変化です。実は、このようなモデルは過去から存在していました。京セラ・JALの稲盛和夫氏が実践した「アメーバ―経営」、松下電器(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏が行っていた「衆知経営」などです。この「全員経営」は日本の強みでもあったのです。
1960年代高度成長期のカリスマ経営者「松下幸之助」(パナソニック創業者)が語っている言葉を「全員経営」という本の中で野中郁次郎(一橋大学名誉教授)は次のように語っています。
「経営の神様」と称された松下幸之助は、多くの名言を残しています。そのなかで、今の時代に私たちがもう一度目を向けるべきは、「衆知経営」という言葉です。幸之助氏は著書「実践経営哲学」のなかで次のように述べています。
「衆知を集めた全員経営、これが私が経営者として始終一貫心がけ、実行してきたことである。全員の知恵が経営の上により多く生かされれば生かされるほど、その会社は発展するといえる」
幸之助氏が「衆知を集めて全員経営」に徹しようとしたのは、自分自身に学問がなかったため、社員たちの知恵の結集に思い至ったためといわれます。ただ、その根底にはどんな優秀な経営者でも、「神のごとく全知全能」ではなく、「その知恵はおのずと限りがある」、その限りある自分の知恵だけで仕事をしていこうとすれば、様々な問題点が生じ、往々にしてそれが失敗に結びつくという経営観がありました。(全員経営 野中郁次郎・勝見明著より引用)
この言葉が今に通じると野中氏は語っています。たしかにその通りと思い「全員経営」の大切さを切実に感じる私です。ただ、過去の「全員経営」は「全員が当事者意識をもってリーダーの道筋に従い目的達成に取り組む」であり、今の「全員経営」は「全員が主体性をもって目標達成の方策を見つけ実践することの組み合わせで目的達成に取り組む」だと私は考えています。全員が主体的にアイディアを出し実践する。リーダーは価値ある目的を示して、それに取り組むメンバーを支えることに注力する。このような組織の形だと考えてください。
❖「そのために必要な個々の主体性
そのような組織で働くためには、というよりも現代を組織人として乗り切るためには「主体性は最も必要な性質である」と私は考えます。各人が主体性がなければ「目標達成の方策」を見つけることは現在では不可能です。主体性を持ち自ら動くという精神が、今一番大切なものなのではないかと考えます。
もし、良ければ「全員経営」を読んでみてください。今、必要とされる組織の在り方、必要とされる人材が見えてくるのではと考えます。